映画館で邦画は観ない性質(たち)なのに、今月になってからつづけざまに邦画を観にいっていた。過去の記憶を引きずり生きるものと記憶を忘れてしまうものの対照的な二作品であった。
明日の記憶 嫌われ松子の一生
  

記憶というのは不思議なものだと思っている。つい先ほど会った人の特徴や服の色を聞かれても、まともに答えることができないのに、何十年も前に、すれ違っただけの女がつけていた香水の匂いは、今でもはっきりと憶えていたりする。そうやって削除されずに正確に憶えていたと思えば、幼い僕の眼で見た風景と実際の風景ではまるで違っているということもある。以前、車を運転していて祖父が住んでいた村に、偶然迷いこんだ時もそうだった。幼いころの僕はその風景をまちがいなく見ていた。ここでいとこ達と缶蹴りをして遊んで、すぐ先にある川で水遊びをしたんだよな。あの広い田舎道も、先にあった大きな川も、どこも変わってないのに、僕が今、目にしている風景は、とても狭いあぜ道で小さな小川でしかなかった。記憶ってのはおかしなものだ。